安曇野市のリンゴ農場の1年を描いた絵本「りんご畑の12か月」(講談社)が8月末に発売された。
同書は、安曇野でリンゴ農園を営む主人公のやすおじさんが、都会に住むおいのだいちゃんに農場の様子を手紙で伝えていくというもの。文は美術評論家で作家の松本猛(たけし)さん(61)、絵はイラストレーター・中武ひでみつさん(40)が担当した。
絵は、まだ夜中で薄暗い北アルプスの姿から始まる。だんだん夜が明けて朝日が北アルプスを赤く染め始めると、農場の全体像が見えてくる。「まず、安曇野がどういうところなのかを知ってもらいたくて、全体を描いてもらった。そこから物語の舞台となる農場へクローズアップしていく」(松本さん)。毎月送られてくるやすおじさんからの手紙は、2月は枝の剪定(せんてい)、3月は継ぎ木、4月は霜対策と、さまざまな農場の様子を伝えている。11月の収穫のシーンでは、たわわに実ったリンゴが見開き一面に描かれ、のどかな安曇野の風景が表現されている。
巻末には、だいちゃんに送った手紙に同封した、だいちゃんの母(やすおじさんの姉)に宛てた手紙も載せた。農場や安曇野の様子を本編よりも細かく伝えた内容で「(巻末部分は)親や先生など大人に読んでもらうために書いた。巻末を読むことで、内容や本文では伝えられない『ひそませているテーマ』が分かるので、読み聞かせしている時に、子どもに解説してもらえたらいいなと思って」と松本さんは話す。
やすおじさんは、同市三郷の「おぐらやま農場」のオーナー・松村暁生さん(42)がモデル。同農場のリンゴを松本さんが購入していたことが出版のきっかけとなった。「『子どもが丸かじりできるリンゴを作りたい』と低農薬で栽培する村松さんの姿に感動した」。話だけでなく絵にもこだわり、同農場で働いていた中武さんに依頼。「まだ無名の中武さんに頼むのは、編集者も正直不安がっていた。でも、実際に農場で働いていれば、心の込め方が絶対に違ってくると思いお願いした」と松本さん。中武さんは「今までにないくらい絵と向き合うことができた。何度も描き直して…松本さんもよく耐えて待ってくれたと思う。自分の中で一線を越えられたような気がする」と笑顔を見せる。
10月13日には「安曇野地球宿」(三郷小倉)で、この絵本が生まれたきっかけや制作秘話などについて、松本さん、中武さん、村松さんが語るトークイベントを開催する。「地元の人にもリンゴ農家や農業について知ってもらう機会になれば。絵本についてもより深く感じてもらえるものがあるはず」と松本さん。「今後も絵本や児童文学書を通じて安曇野の魅力を伝えていきたい」とも。
体裁はAB版横、36ページ。価格は1,470円。トークイベントは15時30分~。入場無料。詳細は松本さんのホームページで確認できる。