地域をリサーチし住民らと協同してイベントを行う「野楽プロジェクト」が10月9日・10日、体験型イベント「あさまごと」を松本・浅間温泉で開いた。「FESTA松本」の衛星企画の一環。
同プロジェクトは、土地と人との関わり方や創作の在り方を探求したいと俳優の佐藤蕗子さん、演劇家の藤原佳奈さん、建築家の柳沢大地さんの3人が立ち上げた。その土地(=野)で、集った人と共振して(=楽)、遠くを目指すことを「野楽」とし、舞台芸術や建築をはじめ、あらゆる作品を「つくる」のではなく、関係性の中で成り立つ創作を模索する。今年初めから浅間温泉で、信州大学教育学部1年の太田さくらさん、森下なみさんと共に、住民に話を聞き、調査を進めてきた。
10日には、浅間温泉の芸者の稽古場だったという「田辺薬品」の2階をメイン会場に、「架空の宴」を開催。参加した14人は、えりに「旅は信濃路 浅間温泉観光協会」と入ったはんてんを着て、車座になった。左隣の人に、宴で使用するという「宴ネーム」を付け、名前を繰り返し呼びながら覚えた後、うちわを盃に見立てて乾杯。芸者役の宴ネーム・ミツさんが「浅間節」を教えた。
浅間温泉は、昭和40年代には置屋も数多くあり、100人もの芸者がいたというが、現在は1人もいないという。元芸者として今でも同温泉に暮らす人に話を聞いて作ったという、温泉街の風景を言葉にしたカードを用意。「芸者を見つめて手を振る子ども」「朝早くから土産物屋のシャッターが上がる」「狭い下宿の部屋で麻雀を囲む信大生」など、参加者が1枚ずつ手にして順番に読み、その言葉から想像する「わー」「ガラガラガラ」「ロン」などの音や声を付けていく。その後、輪の中心に立つミツさんに促されて音を発していくと、だんだん声が重なり、活気ある温泉街が浮かび上がるような状態が生まれた。「ああ、懐かしい」というミツさんが、「浅間節」を歌うと手拍子が起こり、徐々に参加者も一緒に歌い、盛り上がった。
宴の後は、街歩きに出掛けた。子ども時代を温泉街で過ごし、「芸者のお姉さんたちにかわいがってもらった」という小澤秀俊さんが案内役を務め、昔の風景を感じられるポイントなどを説明した。20分ほど歩いて着いた源泉がある場所で、土産として「浅間小菊」という最中(もなか)と、街歩きを楽しむヒントとなる役柄を書いた紙を渡して、イベントは終了した。
14日には、今回のフィードバックを行うオンライントークを行う。藤原さんは、「今回はプロジェクトの第1弾として、浅間温泉の皆さんの話を聞いて、何ができるのか検討した。今後は、浅間温泉やほかの地域でも、出会った人たちとできることを考える機会をつくりたい」と話す。