イラストレーター・紙版画家の坂本千明さんの原画展「ぼくはいしころ」が現在、松本・元町の書店「本・中川」(松本市元町1、TEL 0263-33-8501)で開催されている。
絵本「ぼくはいしころ」は、ある街に一匹で暮らす黒猫「ぼく」の物語。同展では、原画約30点と、使用した紙版を展示する。紙版は、下絵をトレーシングペーパーに映してなぞり描きし、裏返して版画用板紙に重ねてボールペンなどでなぞって転写。その線をニードルやカッターを使って削り、インクをのせて刷る。展示する紙版の中には、「ボツ版」と書かれているものも。店主の中川美里さんは「版を見ることで、本がどのようにして作られたのかが分かると思う。本、原画、紙版と見比べてもらえれば」と話す。
額装した版画作品や、「ぼく」をモチーフにした多彩なグッズも用意する。絵本の各場面からイメージした、草むらの中にひそんだり、水たまりをのぞいたりする猫のブローチは、坂本さんの友人で陶芸家の清水直子さんが制作。ほかに、スタンプやマスキングテープ、手拭い、サコッシュなどもある。
現在、2匹の保護猫と暮らす坂本さん。大学時代にイラストレーターとして活動を始め、2009(平成21)年から紙版画の手法を取り入れて、自身の作品のほか、書籍の装画なども担当している。これまでも、飼い猫との出会いから別れまでを描いた「退屈をあげる」(2017年)など、猫をテーマにした作品を手掛けてきた。自身の経験から制作したフリーペーパー「ねこの室内飼いのススメ」の配布も行っている。
同店では以前から、坂本さんの作品を扱っているほか、フリーペーパー「ペットショップにいくまえに」を設置するなど、保護猫の活動にも取り組んでいる。巡回展として福岡や大阪など各地で開催している同展を「長野でも開きたい」と坂本さんからの希望があり、県内初展示が実現した。
「絵、版画はもちろん、胸にくることを程よい距離感、体温で伝える文章も素晴らしい」と中川さん。紙版の感触を確かめたり、原画との違いを見比べたりして過ごす人や、版画作品やブローチは一つ一つ表情も違うため、並べてどれにするか悩む人も多いという。「いろいろな角度からゆっくり楽しんでもらえれば」とも。
営業時間は12時~18時(金曜・土曜は19時まで)。月曜・火曜定休。5月23日まで。