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松本の書店「栞日」が銭湯「菊の湯」継承 常連客を守り、持続可能な湯屋目指す

リニューアルに向け改装中の「菊の湯」で談笑する3人(左から菊地さん、湯屋チーフ・山本ひかるさん、宮坂さん)

リニューアルに向け改装中の「菊の湯」で談笑する3人(左から菊地さん、湯屋チーフ・山本ひかるさん、宮坂さん)

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 松本市の書店「栞日(しおりび)」(松本市深志3)が、通りの向かい側にある銭湯「菊の湯」の経営を引き継ぎ、10月15日のリニューアルオープンに向けて準備を進めている。

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 「菊の湯」はもともと材木店で、職人のために廃材などを使って風呂をたいたのが始まりで、昭和20年代に公衆浴場となった。1989(平成元)年に大規模改修を行い、3代目の宮坂賢吾さんが営業を続けていたが、利用者の減少や燃料の高騰で、経営は厳しい状態だったという。

 今年5月、宮坂さんが同じ町会で、「高橋ラジオ商店」だった建物をリノベーションした「栞日」の菊地徹さんに「銭湯の外観は残しつつ、何か活用できないか」と相談を持ち掛けた。菊地さんは、「別の店ではなく、銭湯を残したい」と即答。宮坂さんが具体的な数字を見せて状況を説明しても、菊地さんの気持ちは変わらなかった。何度も話し合いを重ねた末、菊地さんが作った収支計画を見て、宮坂さんも納得。7月半ばに継承が決まった。

 その後、町内の回覧板で報告し、銭湯内にも掲示した。菊地さんは「まずは、『菊の湯』が日常にある方から伝えたかった」と話す。8月半ばにはSNSでも発表し、「湯屋チーフ」を募集。1週間という限られた時間にもかかわらず、13人の応募があった。全て県外在住者で、年齢は20代~30代、中には大学生もいたという。「これだけ若い人たちに興味を持ってもらえたことは、大きな意味がある」。9月半ばにはクラウドファンディングを立ち上げ、現在も支援を募っている。

 菊地さんは「銭湯と、銭湯がある松本の風景を残したかった」と振り返る。「菊の湯」に開店前から近所の人たちが集まる様子を毎日眺めるうちに、いつしか「もし銭湯の経営が厳しくなって、閉めるということになれば、継承を名乗り出よう」と思うようになったという。引き継ぐときに決めたことは、「今、通っている近所の皆さんにとって変わらず心地良い湯と場であり続けること」と「地域と地球の環境、利用者の健康に配慮したエココンシャス&ヘルスコンシャスで持続可能な銭湯に段階的にアップデートしていくこと」の2つ。コンセプトは「街と森を結ぶ湯屋」とした。

 県内の銭湯で、家族以外が継承するという例はないといい、「プレッシャーというよりは、『4代目』という重み、責任感を強く感じる」と菊地さん。宮坂さんからは「失敗なんてないので、やり切れるだけやってほしい」という言葉を掛けてもらったという。「受け継がせてもらえたことがうれしいし、幸運だとも思う。これが、銭湯がある風景を残していく一例となれば、ほかの地域にとってもいい影響を与えられるはず」と意気込む。

 リニューアルオープンは15日14時。

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