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塩尻市の目指す地方創生~交わることで変わるもの、生まれるもの

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塩尻市は「塩尻市まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき、地方創生のフロントランナーとして各種事業を推進している。中でも、地域のステークホルダーや首都圏の大手企業などとの官民共創体制を強化。今年度から本格的にスタートした「地方創生協働リーダーシッププログラム(MICHIKARA)」をはじめ、さまざまな取り組みを紹介しながら、同市の目指す地方創生を探る。

きっかけとなった「MICHIKARA」

地方自治体職員と首都圏大企業のプロフェッショナル人材が協働してイノベーションを起こす土台づくりとして、企画した同プログラム。平成28年度からの本格的な活動を見据え、プロトタイプとなる第1回が行われたのは今年2月のことだった。同市が企業と連携して政策立案するのは初の試み。ソフトバンク(東京都)、リクルートグループ(同)の2社の社員と市職員合わせて約30人が市の課題について議論を進め、市内で2泊3日の合宿を実施。最終日には小口利幸市長らに提言を行った。

地方創生協働リーダーシッププログラム

その後、本格稼働となった第2回は、6月下旬から約3週間に渡って開催された。新たに日本たばこ産業(同)が加わり、3社の社員と市職員、約40人が5つの班に分かれて課題解決策を検討。2泊3日の合宿を実施したが、事前に現地に入り調査を進めた班や、前々日入りして議論を重ねた班もあったという。最終日の報告会では、熱のこもったプレゼンが繰り広げられた。

「MICHIKARA(ミチカラ)」

報告会で提案したものの中には、その後、市のコンセプトに反映されたものや、次年度の予算に反映するよう議論を重ねているものもあるという。

また、同プログラムでは10月にプロジェクト設計を担うチェンジウェーブ(同)などと共同で全国フォーラム(MICHIKARA官民協働フォーラム)を東京大学駒場リサーチキャンパスで開催。参加した人たちの相互作用によって新たな事業が生まれるというプロセスが評価され、2016年度のグッドデザイン賞も受賞した。

「MICHIKARA」の取り組みを、大学生にも

8月には、リクルートマーケティンブパートナーズと地域の課題解決に向けた教育プログラムを提案する「Will×地域創生学びコース」を、またソフトバンクと「地方創生インターン~TURE-TECH~」を立ち上げ、大きな注目を集めた。「TURE-TECH」では「よりパワーのある学生でプロジェクトを組めば、より大きな力になり、学生にとっても得るものは大きいはず」とソフトバンクから提案があり、二つ返事でOKしたという。

「TURE-TECH」
「TURE-TECH」の様子

取り組んだ課題は、「高齢化社会」「インバウンド」「ワイン用ぶどうの需給バランスのミスマッチ解消」「市で実施される選挙の投票率」「市への婚姻届提出数」の5つ。大学生が興味関心を持てるものをテーマにすることで、地域課題の難しさを感じてもらうと共に、「塩尻を好きになってもらう」というシティプロモーションとしての狙いもあった。全国各地から1400人の学生の応募があり、その中から選ばれた30人が参加。9月22日~27日まで、6日間の合宿を行った。現地視察や住民への聞き取り調査を重ね、報告会では小口市長らへ提案した。

「TURE-TECH」
「TURE-TECH」の様子

「TURE-TECH」
「Will×地域創生学びコース」の様子

背景にあったもの~スピードと信頼

同市がこれらの取り組みを始めた背景には何があったのだろうか。基部となっているのは、平成27年度からスタートしている「第五次総合計画」。「長期戦略」を頂点に、具体的な実施方法と重点分野を定めた3年間の「中期戦略」、さらにそれを事業化する「実施計画」の3層構造にし、「中期戦略」を3回繰り返すことで、9年の計画期間とした。3年×3、と区切ることでより具体的に計画を進めることができ、スピード感が生まれる。そのために新たなPDCAサイクルが必要となり、行政評価・実施計画・予算編成を効果的に連動させた「行政経営システム」を同市は自前で構築した。

「これにより、事業の途中である年度内に、評価を行うことになり、現状の課題を踏まえた予算編成もスムーズにできるようになった」と市企画政策部企画課の北野幸徳さん。「評価対象を絞り込んだ制度や各事業部の自立的な予算編成などで業務の効率化が進む。実は『早さ』は信頼にもつながる」と話す。

「MICHIKARA」はこの新たなPDCAサイクルに組み込まれたもの。課題について議論し、解決策を提案。その後、事業評価、予算査定を経て翌年度の予算編成につなげる仕組みとして実施している。

職員の変化~民間企業との共創で得られるもの

民間企業の社員と共に取り組みを進めることで、特に若手職員に大きな変化があったという。「スピード、柔軟性、連携で生まれる力、そして積極的にトライしていくということ。ノウハウを身につけるという面ではもちろん、それ以外の部分でも得たものは大きい」と同課の山田崇さん。そして、10月、地方創生をテーマとした包括連携協定をリクルートホールディングス(東京都)と締結。また新たな民間企業との「共創」の場が生まれた。

同社の新規事業開発プログラムに寄せられる新規事業の提案の数は、年間約500件にのぼる。その中から、実証実験という次のステップに進めるのは約20件、さらに事業化するのは約4件だという。

地方創生協働リーダーシッププログラム

10月24日に行われた締結式で、同社メディアテクノロジーラボ室長・麻生要一さんは「失敗事例が財産」と話した。「496回失敗したという大きな財産がある人たちと、包括連携協定という形で同じ方向を向いて動くということに大きな意味があると思う」と山田さん。現在、同市は部署横断のプロジェクトチームを発足し、既に複数の実証実験が地域で展開されている。課題を整理し、民間の視点を知る。題材をきっかけに議論を重ねるプロセスを経験する。それらのことが政策にも生かされていく。今後、どのような事業が生まれ、どのように変化していくのか、同市の取り組みに引き続き注目していきたい。

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