山雅のサポーター=「熱狂的」というイメージを持っている人が多いのではないだろうか。確かに今まで山雅のサポーターは「Jリーグのチームに匹敵する」という声が多く聞かれていた。地域リーグ、JFL時代の試合を見ても、ホームゲームで相手チームのサポーター数が山雅のサポーター数を超えたことはおそらくないだろう。昨年12月11日に開催された最終戦には、昨季平均入場者数(震災試合含む)が7461人となり、昨年更新したJFL記録5079人を自ら大きく塗り替えた。
ホームのゴール裏(南側)にいるサポーターはユニホーム着用は当たり前、声援も大きい。一方、同じ自由席である東側の席の観客を見ると、ユニホームを着ている人はあまりいない。しかし、ユニホームは着ていなくても、ほとんどの人が持っているものがある。それが、タオルマフラーだ。
タオルマフラーを持っているといないとでは楽しさがかなり違う。タオルマフラーは試合会場のほか、3月1日にアイシティ21と井上百貨店にオープンしたオフィシャルショップでも購入可能(1,500円)。タオルマフラーの主な使い方を紹介する。
【1】選手入場のときに高く掲げる
選手がピッチに入場するとき、このタオルマフラーを高く掲げて迎えるのが恒例。「頑張れ」「応援しているぞ」というサポーターからの意思表示の一つになる。
【2】ゴールが決まったら振り回す
山雅の選手がゴールを決めたら、タオルマフラーを頭上でグルングルンと振り回す。コンサートなどで経験がある人もいるであろうこのパフォーマンスは、ゴールのうれしさを倍増させる。客席は、まるで緑色のしぶきをあげているようで見応えがある。
【3】せっかくなので、巻き方に個性を出す
サポーターを見ると、巻き方にもこだわりが見える。大きく分けて3パターン。
(1)首から垂らすだけ、または前で縛る
(2)結び目を後ろに回す
(3)リストバンドを通してネクタイ風に
今回、山雅サポーターが集まる店「かとちゃん」(松本市中央1)で、市内で電気店を営むサポーター歴3年の前澤努さん(36)と同店の加藤順一さん(54)に話を聞いた。
― 前澤さんが山雅サポーターになったきっかけは?
最初は友達に誘われて行きました。サッカーはあまり興味が無かったけど、アルウィンを見てみたいなと思って。それが地域リーグからJFLに昇格した2009年。その年の天皇杯で浦和レッズに勝ったときに「うわ、すごいな」と思って。そこから山雅の快進撃が始まって、社会人サッカー選手権で優勝、全国地域サッカーリーグで優勝した。あれを見たらハマるしかないでしょ(笑)。
応援にも引かれましたね。知らない人同士でも一緒に応援するのが楽しかったし、大声を出すことって日常でなかなかない。最初は楽しいだけだったけど、そのうち「応援しなきゃ!声を出さなきゃ!」っていう使命感のような強い感情が出るようになりました。だからアウェー戦もときどき行きます。
― アウェー戦ってどんな感じですか?
相手チームのサポーターより多いときもあるんです。どっちがアウェーかわからなくなるくらい(笑)。沖縄でも300人が行っちゃいますからね。
面白いのが、高速道路を走っていると山雅のステッカーを貼った車が同じ方向に向かって何台も走っていくこと。山雅にハマっていなかったら、こんなに日本各地に行くこともなかったと思う(笑)。サポーターも含めて「山雅」だと思っていて、自分も山雅の一員だと思うからアウェー戦にも行っちゃうんだろうな。
― 初心者だとアルウィンに行くのにちょっと勇気がいると思うんですが…
中心となって声を出している若い男性陣は、熱いだけじゃなくて、周りの人にもっと声を出してもらおうと頑張っている感じ。女性も多いし、年配の方もたくさんいる。純粋にじっくりサッカーを見たい人は東側の席に行けばいいし、声を出したいと思う人はゴール裏に行けばいい。どちらも自由席なので、自分の気分で席を決めたら見やすいと思います。
入場の時にタオルを掲げたり、声を出したりというのは最初は恥ずかしいかもしれないけど、周りの人もやっているから自然とできちゃう。その場の雰囲気に身を任せてみたらいいと思います。
― どうしてこんなにサポーターがいると思いますか?
松本って皆で応援できる「何か」って今までなかったから、熱中できるものができたのは大きいんじゃないかな。あとは選手との「距離」が近いこと。ピッチと観客席の距離もそうだし、イベントなどで選手を身近に感じることができる。選手のことをあまり知らなくても、単純にうれしくなるんじゃないかな。
山雅を知らなければ知り合ってない人もたくさんいます。一人で飲みに来ても、ツイッターで「かとちゃんなう」ってつぶやけば来てくれる人もいるし。普通、飲みに行くと同世代が集まるけど、「山雅」を通せばいろんな世代の人と知り合える。広がっていくのが面白いですね。
― 加藤さんは何がきっかけで山雅にはまったんですか?
大月社長が選手を連れて来たんです。2005年かな。1部から2部に上がった年。大月社長の実家の「大月酒店」からお酒をとっていたので、知り合いではあったんです。「松本山雅が…」と話をしているんだけど、知らないから「ハイハイハイハイ~」って知ってるふりして相づち打ってた(笑)。だからそのころは「信州Jプロジェクト始動」のポスターが1~2枚貼ってあったくらい。
2005年から貼ってあるポスター
― 今の店内からは想像がつきませんね。今では「サポーターが集まる店」として有名ですが、ここで山雅にハマる一般のお客さんもいるんですか?
いますよ。昔は山雅の「や」の字も言っていなかった人がアルウィンに行くようになったり、「うちの会社、スポンサーになったよ」って人もいたり。「いつの間に」っていう人が多い(笑)
― 加藤さんが感じる山雅の魅力は?
「夢はあきらめなければ叶う」ってよく言うでしょ?きれいごとだと思っていたけど、山雅はそれを実証してくれた。昨年は松田選手のこともあって、選手も相当つらかったと思う。何度も「(昇格は)無理だ」と思った。それを覆したのがすごい。
― 加藤さんにとって山雅の存在はどんなものですか?
ありがたい存在ですね。試合を見ると、元気をもらえます。負けると落ち込むけど、何日かしたら「よし頑張るぞ」と思える。山雅に携わってなかったら、何の趣味もなく、ダラダラと店をやっていたと思う。逆に山雅に熱中しすぎて、家のことは何にもできなくなっちゃったけど(笑)
― お二人から、「サポーター元年」の人にメッセージをお願いします。
前澤さん:アルウィンに足を運ぶだけがサポーターじゃないと思います。自分のお客さんでは、テレビで見たとか、新聞で見て応援しているとかいういう人がたくさんいる。だから、入場者数は出るけど、それだけじゃないと感じます。一緒に山雅を応援しましょう。
加藤さん:初めての人はいきなりゴール裏に行かなくてもいい(笑)。何度か足を運ぶうちに「ゴール裏に行ってみたいな」と思えたら行けばいい。自分たちも最初はアウェー側で見ていたし。野球の外野席と一緒で、騒がないと面白くない。騒いでいい場所だからね。それぞれの楽しみ方を見つければいいんですよ。まずは行ってみて、その場の流れに身を任せてみたらいいと思います。
2人に共通するのは、サッカーを全く知らない身であってもハマったということ。それは実際に足を運んで現地の空気を感じたことが大きい。「まずは行ってみる」。そこで楽しいと感じるか、騒がしいと感じるかは人それぞれだが、応援する人のパワーと、それに応えようとする選手の姿に、何かしら感じるものがあるはず。
山雅のサポーターは、開幕戦が行われる味の素スタジアムに5000人で詰めかけようと、呼び掛けている。やがてその動きは対戦相手である東京ヴェルディの関係者を巻き込み、ヴェルディの公式サイトでは、両チームのチケット販売状況を表すユニークなグラフを表示。山雅対ヴェルディのサポーター対決などを面白おかしく紹介した動画も公開されている。
山雅のホーム初戦は3月11日、モンテディオ山形戦。周りに山雅サポーターがいないのなら、試合に行ったことない初心者同士で行ってみるのもいいかもしれない。