まつもと市民芸術館(松本市深志3、TEL 0263-33-3800)で5月6日~8日、歌舞伎の名作「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」を現代劇にした「ヨサブロゥ」の公演が行われた。
「与話情浮名横櫛」は、互いに一目ぼれした与三郎と、地元親分・赤間源左衛門の妾(めかけ)・お富の物語。あいびきの現場を押さえられた与三郎は体に刀傷を受けて放り出され、お富は海に身を投げてしまう。3年後、互いに死んだと思っていた二人が再会を果たすというもの。
もともと「与話情浮名横櫛」は9幕30場という長大な作品。歌舞伎では2幕目「見初め」、4幕目「源氏店」のみが演じられることが多いが、同舞台はその前後のシーンも含め、時代をバブル時代に設定して脚本化、与三郎とお富を中心としたさまざまな人間劇を表現した。衣装は洋服だが、せりふは江戸言葉や歌舞伎調なのが特徴。現代言葉が混ざったシーンもある。「せりふは原作通り。西洋の古典劇は現代の服で表現しているが、日本ではそういったことがなかなかしづらいと思った。『試み』としてずっとやりたいと思っていた」と同舞台の構成・総合演出を手掛けた串田和美さん。
同舞台では、馬渕英俚可さんや大森博史さんなどの俳優陣のほか、同館を拠点に活動する若手俳優でつくる演劇集団「レジデントカンパニー」、串田さんが特任教授を務める日本大学芸術家学部演劇学科の卒業生や現役生徒らが出演した。
6日の公演後には、串田さんと演出を手掛けた中野成樹さんによるアフタートークが行われた。中野さんが「いつもは翻訳劇をわかりやすくするということをやっているが、今回はまるっきり分からなかった。日本語じゃないみたいだった」と話すと会場からは笑いが起こった。串田さんは「バブル時代の設定にしたのは、『とにかく進歩しなくちゃ』という気持ちが現在と共通する時代だと思ったから。走るシーンが多いのも、そこから連想した」と話した。
諏訪から来たという小口萌花さん(18)は「高校で演劇をやっている。レジデントカンパニーの公演をいつも参考にしている。今回は不思議な感じでいい芝居だったと思う。次回も楽しみ」と一緒に来た演劇部仲間と満足げにほほ笑んだ。
与三郎の友人・安を演じた洪雄大さん(中野成樹+フランケンズ)は「俳優さんや女優さん、松本の劇団、学生など、幅のある人たちが作品作りを通してつながりを持つことが、とてもうまくいったと思う」、同大学の森川晴香さんは「みんなでどんどんアイデアを出し合って、突き詰めた先にあるものが見つかるまで決めないという、可能性に掛けた串田さんのやり方はとても充実感があった。とても貴重な経験だった」と話した。