松本・浅間温泉で行っているエリアリノベーションプロジェクトの拠点となる複合施設「松本十帖(じゅうじょう)」(松本市浅間温泉3)がグランドオープンして1カ月が過ぎた。
同施設は、2つのホテル、2つのレストラン、カフェ、書店、パン店、雑貨店、醸造所の総称。一昨年7月、創業約340年の老舗旅館「小柳」を大規模改修した「松本本箱」から順次プレオープンを進め、約2年をかけて本格始動にこぎ着けた。
温泉ホテル「小柳」は、全室にかけ流しの露天風呂を設け、バリアフリー対応。1階には、「浅間温泉商店」と「ALPS BAKERY(アルプスベーカリー)」があり、土産物にもできる生活雑貨や食品のほか、店内で焼き上げるパンが20~30種類並ぶ。「信州イタリアン」をテーマにしたファミリーダイニング「ALPS TABLE(アルプステーブル)」は、宿泊者以外も予約で利用ができる。
「松本本箱」の隣にある蔵は、県内産のリンゴを使ったシードルを醸造する「信州発酵研究所」。昨年仕込んだ5種類のシードルは、レストランで提供するほか、「浅間温泉商店」で販売も行う。
徒歩2、3分の距離には2店舗を展開。宿泊受付を兼ねるコーヒースタンド「おやきとコーヒー」は、以前住民専用の共同浴場として使われていた建物を改装し、定番や季節のおやきのほか、コーヒーや日本茶を提供する。カフェ「哲学と甘いもの」は書棚に哲学書をそろえ、手に取って読んだり、購入したりできる。店内は「静かに自分を見つめる」空間として、パソコンのキーボード音や話し声を控えるよう呼びかけている。
経営する「自遊人」(新潟県南魚沼市)が、「小柳」の事業再生に向けた取り組みを始めたのは2018(平成30)年3月。同社の小沼百合香さんは「地域の核として『浅間温泉の地力』に着目し、『開かれた施設』にすることを目指した」と話す。ホテル外にも施設を備えることで、温泉街を歩くきっかけをつくり、「新たな人の流れ」を生み出すことを意識。浅間温泉在住の人を対象にしたサービスも行っており、「いつもコーヒーを飲みに来る近所のおじいちゃんもいる。当初から思い描いていた、町の人たちも気軽に集える場所に近づいている」と笑顔を見せる。
コロナ禍でなかなかイベントが開けなかったが、グランドオープンに合わせて、シードルやパンの試飲や試食、普段宿泊者しか利用できないスペースの開放やスタンプラリーを行った。近くには、昨夏に横浜市からパン店が移転したり、雑貨とカフェの複合店「手紙舎 文箱(ふばこ)」がオープンしたりと、エリアとしての動きも出てきている。「観光客にも地元の方にも、『浅間温泉、面白いな』と思ってもらえるように、エリアの皆さんと一緒にコンテンツを磨いていきたい」とも。