塩尻市在住の現代美術作家・野村剛さんの個展「野村剛展 日常」が現在、朝日美術館(東筑摩郡朝日村古見、TEL 0263-99-2359)で開催されている。
野村さんは1974(昭和49)年、塩尻市生まれ。京都造形芸術大学に在学中から、絵の具や線画などの表現手法を試行錯誤する中、幼い頃に夢中になった粘土を用いて描き始めた。2000(平成12)年に雑誌「イラストレーター」の公募企画「ザ・チョイス」に入選したことで、「これが自分の表現方法」と自覚し、その後も粘土での絵画表現を続けている。
展示は、「ザ・チョイス」の入選作4点から、同展に合わせて制作したインスタレーションまで、21年の作家生活を網羅した構成。ブドウ畑や川、山など身近な風景を描いたものや、スポーツ雑誌「Number」、国語の教科書などの挿絵なども並ぶ。
「今までやってこなかったことをやろう」と2、3年ほど前から人物画にも取り組み始めた野村さん。一昨年、「アノニム・ギャラリー」(茅野市)の企画した展示で描いた「1万日連続登山」に挑んだ東浦奈良男さんの肖像画や、オーダーを受けて制作した人物画も展示する。「いつからか自分が勝手に決めたルールの中でやっているように感じるようになった。このまま同じことをやっていては、絵が死んでしまうように思った」と振り返る。
インスタレーションは、今年6月まで住んでいたという茅野市の平屋を再現した。木の枠で玄関、台所、風呂、トイレなど間取りを表現し、以前手掛けたふすま絵も配置。随所に置いた日用品を描いた端材は、一時期「1日1枚」と決めて取り組んでいたものだという。「制作環境を変えたいと引っ越して、自分がやりたいこと、表現したいことと向き合い、手を動かした。絵を描くことと生きることが一緒になったように思う」。チラシを敷き詰めたり、カンバスを飾ったりというのは、同館職員のアイデアだといい、「いろいろな人に関わってもらってこの空間ができた。茅野に行った成果をこのような形で残せて良かった」とも。
当初は昨年夏を予定していたが、1年延期になり、その間も作品を作り続けた。インスタレーションの周りを囲む、黒いカンバスに白で描いた日用品のシリーズは、「家と外の現実と非現実、コロナのビフォーアフターのように比較するように見せることができればと思った。今の状況を何らかの形で表現したかった」と話す。「2021 人物」のシリーズは制作過程も分かるように展示。身近な9人に声を掛け、日常生活で感じていることをつづってもらった文章と共に、アルミホイルで輪郭を描き出している。「過去作を振り返りながら、変化を止めないように、手探りでもいいので作り続けたい」と野村さんは笑顔を見せる。
開館時間は9時~17時(入館は16時30分まで)。入館料は一般=400円、大学・高校生=200円、中学・小学生=100円。月曜定休。8月29日まで。