特集

5月の松本は、工芸の街-月間イベント「工芸の五月」特集

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■「松本」への思いと、「使い手」の存在

「クラフトフェア」の出展者は約260組。毎回3割くらいが初出展だという。「新しい人に参加してもらうことで『今のクラフト事情』が表れていると思う」と伊藤さん。
年々増える参加希望者は、今年は1,200組を越えた。「松本で出したい。参加したい。共有したい」という出展希望者の思いをなるべくくみ上げたいが、会場のあがたの森のキャパシティーはもう限界。「出展希望者の思いは『宝』。なんとか生かしていきたい」という思いで、「工芸の五月」はスタートした。


「工芸の五月」オープニングイベントで挨拶する伊藤代表。

とは言え、参加できないクラフト作家に展示の機会を与えるだけのイベントではない。
もともと松本は「民芸」の街。民芸は実用的な工芸、つまり使ってこそのもの。使い手の存在は欠かせない。「クラフトを越えてというか、クラフトをつなぎにして、地域住民と一緒にやっていくことに意味がある」と伊藤さんは話す。

■「クラフト」を通じて、眠ったものを再発見する

今年の「工芸の五月」で顕著にそれが表れている企画が「みずみずしい日常」。わき水のある暮らしの場を工芸で彩り、小さな風景を巡る街の楽しみ方を提案する。 「人場研(まんばけん)」(茨城県つくば市)が企画を担当。「何か松本らしいイベントできませんか?」と依頼を受けた同グループの一ノ瀬彩さんが、実際に松本の街を歩いて「水が多い街」という印象を持ったことが発端となっている。「毎日見ている風景も、ほかの人の目で見ると違って見える。新たに作り出すのではなく、眠ったものを再発見していくことが大事なのだと思う」(伊藤さん)。

メーン会場となる池上邸の蔵は、ずっと使われていなかったもの。池上さんに交渉し、スタッフ総出で大掃除を行い、雰囲気のある空間に生まれ変わった。
10日まで行われた「池上喫水社」では、蔵の中にガラスのコーヒー装置を設置し、わき水6種を使い、8時間かけて抽出したアイスコーヒーを試飲。
16日から始まる「Daily Life-些細なこと」では、ガラス作家の辻和美さんによる水とガラスによるインスタレーションが行われる。

期間中の土日に開催している「みずみずしい日常めぐり」ではガイド役の「めぐり姫」の話を聞き、水さじを使って試飲しながら「水場」をめぐる。
水さじは5人のクラフト作家がそれぞれ木、陶器、ガラスのものを制作した。水さじですくって飲むことで、味のかすかな違いを楽しめるようにと配慮されている。「こんな小さなスプーンで飲んでも…とも思ったが(笑)、でも何か違った感じがするんだよね。こういう発想が面白いなあと思う」(伊藤さん)。

■やっぱり、自分の街を「好き」と言いたい

昨年のインタビューで伊藤さんは「松本は何かを生み出すことは苦手な場所。ただ、新しいものはなんでも取り入れる場所」と話した。新しいものを取り入れ、それを発信することが松本の魅力の一つになるのかもしれない。

松本ではこんなことが言われる。「松本の素晴らしいところは、神様が作ったもの(=アルプスの山々)と、殿様が作ったもの(=松本城)」。
では、人は何を作ってきたのか。これから何を作っていくのか。「生かす、残す、ということは『使う』ということ。生むというのは『作る』ということ。この両方があってこそ。残すべきものは残して、同時に生む。それが人間の活動の根本にあるように思う」と伊藤さん。

「普段、クラフトに縁がないと思っている人にも気軽に参加してほしい。店でも、路地でも、一つでも気に入って、『松本っていいな』って思ってもらえたら」と伊藤さん。自分の街を「好き」と言いたい気持ちは、誰もが心の奥に持っている。「この街が好き!」という人も、「好きってほどじゃないな…」という人も、今まで気付かなかった「街の楽しさ」を実感できる、そんな1カ月になりそうだ。

【関連記事・サイト】

工芸の五月

NPO法人松本クラフト推進会

松本の街を工芸で彩る「工芸の五月」-市内を中心に37会場で(松本経済新聞)

クラフトフェアまつもと2008特集【前編】 「発信する街」に根付いた心地よい空間(松本経済新聞)

クラフトフェアまつもと2008特集【後編】 手にすることで生まれる「思い」を語れる場所(松本経済新聞)

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