長野県が主催する野生鳥獣による被害対策と狩猟の役割と意義を考える「シカと狩猟を考えるシンポジウム」が7月25日、豊科公民館(安曇野市豊科)で行われた。
県内の野生鳥獣による農林被害額はここ数年、年間13億円から18億円で推移し、高止まりの状態。特にニホンジカによる被害は全体の約4割を占め、農林被害や南アルプスなどの高山帯における食害被害も深刻化している。一方、有害鳥獣の捕獲などに携わる狩猟者の高齢化や減少も全国的な問題になっている。県林務部野生鳥獣対策室担当者は「多くの人に『狩猟の役割と意義』について理解を深め、地域が一丸となって問題解決に取り組む気運を高められれば」と話す。
当日は200人余りが参加。ホールでは麻生大学獣医学部教授の高槻成紀さんと東京工業高等専門学校講師の荒垣恒明さんによる講演会が行われた。高槻さんはシカが増えた原因や、全国各地の対策の成果などを解説。「シカ対策はシカの個体数重視だが、生息地の特性を考慮すべき」とし、長野県については「面積が広い」「自然が多様」「農林業県・観光県」などを特性に挙げた。また、「わたしたちは、『野生動物が増えすぎることはない』という意識からどこか抜けられないところがある。しかし、シカは増え始めると恐るべき勢いで増えていく」とニホンジカの繁殖力の強さを指摘し、「どこの県でも手を付けられなくなってからようやく腰を上げた。自然保護系と農水系が統一戦線を組む必要がある」と早急の対策を促した。
会場には、ハンティングシュミレーションや狩猟免許相談、鳥獣被害対策相談などのコーナーも設け、シカ肉を使ったジビエ試食会やレシピのパネル展示なども行われた。試食会では「鹿肉のクリーミーコロッケ」「鹿 味付き焼肉」「鹿そぼろみそ」など5品280食分を用意。参加者からは「焼き肉がおいしい」「シカの臭みがなく食べやすい」「これなら普段の食事でも食べられる」などの声が聞かれた。
「シカと狩猟を結びつけて開催したのは初めてだったが、多くの人に来てもらえた。県外からの参加者も多く、県内だけではなく全国的な問題だと改めて感じた」と同担当者。「ニホンジカは唯一目標数を決めて捕獲を進めている動物。貴重な動植物の保護や生物多様性の確保からも対策が急がれている」と話す。県では今後もシンポジウムを開催するなど、周知に力を入れていく方針。