アルピコ交通(松本市井川城2)が3月21日から解体することを発表した上高地線新村駅の旧駅舎の内部公開が同20日、同駅一帯で開く「上高地線ふるさと鉄道まつり」で行われる。
旧駅舎は1921(大正10)年に建てられた木造平屋で、開業時のたたずまいを残し、正面には旧筑摩鉄道(現アルピコ交通)の社章も。2012年、隣接して新駅舎が完成してからは閉鎖し、イベントの際などに待合室や事務室を公開してきた。
閉鎖後、新村地区の町会連合会や文化財保存会、有志らでつくる「新村駅舎を残す会」、近隣にある松本大学などが保存・活用について模索。同社も「いい活用法があれば協力したい」という方針を示す中、具体的な案が見つからないまま5年が過ぎた。新村芳男町会連合会長は「住民や学生たちといろいろ検討してきたが、活用法と資金の両面で良案が見いだせなかった」と話す。
今年に入り、「地域としてどう考えているのかを一度同社に話そう」と考えていたところ、県外で雪によるJR駅舎の倒壊があり、国土交通省が木造駅舎の安全性について注意喚起を行った。それを受けて同社からも申し出があり、2月に話し合いの場を設けた。「時間がたてばたつほど、安全ではなくなる。最終的には皆の思いが一致した。5年間、待ってくれていたアルピコ交通に感謝したい」と新村さん。
解体後は、コミュニティーバスや観光バスの乗降所として整備する予定。旧筑摩鉄道の創業者・上條信さんが同地区出身であり、「交通の拠点にしたい」という住民らの思いもあるという。
同駅構内にある新村車両所で昨秋、本をテーマにしたイベント「しましま本店」を開いた住民グループ「上高地線応援隊」のメンバー・太田岳さんは、「自分は傍観者のような立場しか取れなかった。もっと情報発信したり、いろいろな人に相談したり、できることはあったはず」と悔しさをにじませる。「歴史的な建物、思い入れのある建物について考えることは今後いくつもあると思う。気持ちはあっても、実際に保存・活用していくことの難しさを感じた」と新村さん。「地元住民、松本大学、アルピコ交通の3者で一緒に考えていける関係を築けたのは良かった。旧駅舎がなくなるのは寂しいが、どちらかといえば前向きな気持ち。これからも地域の発展に向けて皆で取り組んでいければ」とも。
イベント開催時間は10時~15時。電車や電気機関車、バスの展示のほか、太鼓の演奏なども行う。問い合わせは同社鉄道事業部(TEL 0263-26-7311)まで。