6月末に閉店した塩尻市の銭湯「桑の湯」(塩尻市大町一番町)の事業を、古い銭湯を再生して経営を代行する「ニコニコ温泉」(静岡県)が引き継ぐことが決まった。
「桑の湯」は1929(昭和4)年に創業。かつて木材店を営んだ桑澤家が廃材を使って風呂をたいたのが始まりで、95年間、町の銭湯として親しまれてきた。10年ほど前から、4代目の桑澤弘幸さんと母・節代さんで営業を続けてきたが、体力の限界や施設の老朽化を理由に、閉店を決めた。
利用者たちからの惜しむ声を受け、桑澤さんは事業継承を検討。地域のまちづくり会社のアドバイスをもらいながら、銭湯経営の経験があるなどの条件で7月に後継者の募集を始めると5社からの応募があり、面接などを経て、8月中旬に「ニコニコ温泉」に決定。決め手について桑澤さんは「これまでの桑の湯、地域のことを一番考えてくれていた」と話す。
9月12日に行われた記者会見には、桑澤さんや同社の真神友太郎社長、店長を務めることになっているマネジャーの相良政之さんらが出席。昨年8月に入浴客として訪れていたという真神さんは「地域の人たちの日常に寄り添った場所だと感じた」と話した。現在、東京や大阪など4カ所で事業を行うが、地方の銭湯は初めて。「都市部以外でも成立する事業でないと意味がないと考えていたので、挑戦したい気持ちは強かった。地方の古い銭湯を残し、新たな風を吹き込みたい」と力を込めた。
屋号はそのままにし、お湯を沸かすのも以前同様にまきを使う予定。年内の営業再開を目標に、タイルの修正や脱衣所の改装のほか、スタッフの体制づくりを進める。最初の1年で自立した経営を目指し、その後は建物を活用した宿泊事業、周囲の店と連携した新たなサービスなども検討していきたいという。「地域にとって大切な銭湯を背負い、身が引き締まる思い。今ある価値を底上げし、長く営業していきたい」と真神さん。桑澤さんは「後継者が決まり、ほっとしている。これからの桑の湯をしっかりと見守っていく」と笑顔を見せる。