松本山雅F.C.がJに昇格した2011年シーズンを追ったノンフィクション「松本山雅劇場 松田直樹がいたシーズン」(カンゼン)が7月19日、刊行された。
著者は、映画「クラシコ」の原案となった「股旅フットボール」などサッカー関連の書籍を手掛ける写真家・ノンフィクションライターの宇都宮徹壱さん。同書では、激動の昨シーズンを追いながら「このクラブはなぜ、これほど多くの人々を魅了し、そして巻き込んでしまうのか?」という疑問に迫る。プロローグでは、昨年8月に亡くなった松田直樹さんが、山雅に入団するまでの経緯を紹介。リーグ戦をはじめ、昨年7月に行われた柿本倫明さん(現・アンバサダー)の引退試合や天皇杯なども取材している。スタッフやサポーター、アルウィン、信州ダービーについての記述も。同書執筆のきっかけともなった2010年12月の松田さんへのインタビューも掲載する。
宇都宮さんは、山雅が北信越リーグに所属していた2006年から取材を行ってきた。「サッカーは単なるスポーツではなく、生活の一部。ピッチの中のことだけを書いても足りない」と、山雅だけではなく、他のJFLチームのスタッフやサポーターなど広く取材。JFLの魅力や課題、東日本大震災とソニー仙台のこと、地域とサッカーのつながりなど多面的に取り上げる。「もともと松本はサッカーが盛んなわけでもないのに、アルウィンの存在、そして観客の多さが不思議だと思っていた」と宇都宮さん。松田さんの入団が発表された際には「元日本代表が、JFLのチームに来るという『ミスマッチ感』を感じたが、加わることでどんな化学反応が起こるのか、山雅がどう変わっていくのかを見ていきたいと思った」と振り返る。
発売初日で重版が決まるなど、売れ行きは好評。「地元書店の皆さんにも、ポップやコーナーを作るなど一緒に盛り上げていただいている。1日で100冊以上売れた店もある」と同社の坪井義哉さんは話す。
「昨年は本当にいろいろなことがありすぎて、俯瞰(ふかん)的に描かないと描ききれない部分もあった。それでも記録しておきたかった」と宇都宮さん。「自分の中には『サッカーファンを増やしたい』という強い思いがある。その一助になれば」とも。
四六版・288ページ。価格は1,680円。