2023年2月27日、松本パルコが2025年2月末で閉店することを発表した。「商都・松本」を代表する施設の一つが閉店するという知らせは、地元に衝撃を与え、地元メディアやSNS上には、喪失感や感謝を表す声が数多く上がった。
その後、同店は「GOODBYEプロモーション」を展開。ビジュアルイメージを手がけたのは、ダンサー・モデルのアオイヤマダさん、カメラマンの磯部昭子さん、映像作家・デザイナー・コラージュ作家の清水貴栄さん。2019年の35周年アニバーサリーキャンペーンでもタッグを組んだクリエーター3人の共通点は、地元に縁があること、そして「松本パルコで育った」と自負していること。「GOODBYEプロモーション」について取材をした際に、同店広報担当者の清水航さんは「閉店までの時間で、3人のように『パルコで育った』と言ってくれる人を増やしたい。地元の皆さんをはじめ、パルコに愛着を抱く人たちとつながることで、さまざまなものを生み出したい」と語った。
松本パルコが40年間の感謝込め閉店企画 残り1年半「地元の皆さんと共に」
その思いを形にした企画の1つが、信州大学の学生が作るインタビューコンテンツ。入店するテナントの店長や店員のほか、勤続38年を迎える事務所所長、店内清掃などを行う環境整備スタッフなどを取材した記事を、3月22日に第1弾、そして5月31日に第2弾として特設サイトで公開した。
信大生にとって、閉店が決まっている松本パルコと関わるということは、どういう気持ちなのだろうか。「取材の様子」を取材した。
この日の取材は4カ所。3月にオープンした「エディストリアルストア」では、店長にインタビューし、アイテムについて説明してもらいながら、その様子を撮影した。
現在、企画に携わるのは2、3年生の5人。撮影を担当している工学部2年・中谷友亮さんは、父親がカメラに携わる仕事をしていたこともあり、子どもの頃からカメラを触っていたとのこと。「ずっと趣味として撮っていたが、スキルアップができるかも」と参加を決めたという。
「nop de nod・POU DOU DOU」では、スタッフにさまざまな質問をして、内容を細かくメモする姿が見られた。ライターを担当した人文学部2年・米田美優さんは、元々同ブランドのファンで、店を訪れることもあったという。インタビュー後には「お客さん目線」での話も弾んでいた。
取材をするのはこの日が2回目。学生たちの様子を見守っていた清水さんは「初回は硬さもあったが、今日はかなり自然な感じ。インタビュー、記事執筆、サイト掲載という一連の流れを経て、学生たちの中に『もっとこうしたい』というものが生まれたのでは」と笑顔を見せる。昨年12月、企画のキックオフの際と比べると、「当初は明確に何かがやりたい、という感じが見えない学生もいたが、今、表情を見ると違って見える」とも。
取材の合間に、学生たちに話を聞いた。
撮影を担当していた中谷さんは、奈良県の出身。松本に来たときは「パルコがある!都会だ!」という印象を持ったと振り返る。「松本の町のことを知るきっかけになればと思って参加した。今、感じているのは自分が想像していた以上に『思い入れのある場所』だということ。『パルコができたときの衝撃』や『集合場所といえばパルコ』などの言葉から、本当にいろいろな思い出が詰まっているのだと知った」と話す。
「エディストリアルストア」を取材した繊維学部2年・木南一馬さんと工学部2年・深澤遥介さんも県外出身。「松本パルコはふらりと立ち寄るくらいで、何か特別な思い入れがあったわけではないが、皆さんの話を聞いていると面白い。一言一言が生々しいというか、リアルで重みがあって、どんどん引かれていった」と木南さん。深澤さんは「パルコのお店や商品は、ちょっとハードルが高いイメージがあって、最初は取っつきづらかった。インタビューで働いている人のバックグラウンドを聞いて距離が近くなっていった感じがする。松本パルコが愛されていると感じる度に、自分の中でもイメージが優しく、柔らかくなっていった」と笑顔を見せる。
「nop de nod・POU DOU DOU」を取材した米田さんは大阪府出身。中学・高校時代は地元の心斎橋パルコに足しげく通っていたこともあり、松本パルコでもよく買い物をしているという。「なくなると聞いて寂しい。でもこのような形で松本パルコと関わることができるのはうれしい」。もう一人、一緒に取材をした経法学部3年・小林涼香さんは「インタビューした皆さんの思い、情熱が印象に残っている。私は中野市出身なので、当然松本パルコは知っていたし、ずっとそこにあり続けると思っていた」と振り返った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「松本パルコは知っていても、自分とはあまりかかわりのない存在だった」という学生たちが、松本パルコに関わる人の話を聞くことで、ニュースやSNSで見聞きした「残念」「寂しい」という言葉とは、どこか違うものを受け取っていたように感じる。
「地元、若者とのつながりはパルコらしいアプローチ」と清水さん。閉店まで、企画は続けていくという。今後、どのようなものがここから生まれていくのか、期待して見守りたい。