松本市在住のSF小説作家・六冬和生(むとうかずき)さんの著書「松本城、起(た)つ」(早川書房)が7月22日、発売された。
物語は、信州大学に通う男子大学生・巾上岳雪と、家庭教師先の女子高生・屋諸千曲が、江戸時代にタイムスリップ。年貢増徴に対する一揆「貞享(加助)騒動」が起こる最中、巾上は藩主直属の侍・鈴木伊織、屋諸は松本城を守る神様・二十六夜神として、出会った人々を救うべく奔走する様子を描く。
松本城に伝わる「二十六夜神伝説」と「加助のたたり」という2つの伝説から着想。「舞台を松本にしたときに、最初は現代の設定も考えたが、生活に近すぎて難しかった。いろいろ調べるうちに、加助と二十六夜神に行きついた」と六冬さん。「倒す」と「守る」という相反するものが共存していることに興味を持ったと振り返る。方言で話すシーンも多く、「親しみを感じる部分もあれば、ちょっと違うと思う部分もあるはず。地元の人ならではの楽しみ方ができると思う」
六冬さんは岡谷市生まれ、信州大学経済部卒。2013年、「みずは無間」で第1回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。現在、松本市内で、会社勤めをしながら執筆活動を続けている。
県内限定の帯も用意し、地元での展開にも力を入れる。宮脇書店松本店(松本市出川2)では、発売に合わせて「六冬和生をつくった10冊フェア」を開催。六冬さんに話を聞いてピックアップした10冊や、店長が作ったペーパークラフトの松本城と共に、同書のコーナーを設置する。「松本は郷土愛が強い地域なので、地元をテーマにした作品を手にする人は多い」と同店の月元健伍さん。「ファンの人はもちろん、初めて読む人にもSF作品に触れるきっかけになれば」と話す。
「普段あまりSFを読まない方のことも考え、SFの部分があまり分からなくても楽しんでもらえるように書いた」と六冬さん。「地元の人は特に楽しめる作品になっている。江戸時代にも思いを巡らせながら、読んでもらえればうれしい」とも。
価格は1,512円。