提供:環境省 制作:松本経済新聞
長野県松本市と岐阜県高山市にまたがる中部山岳国立公園南部地域は、新穂高温泉、平湯温泉、上高地、槍・穂高連峰、さわんど温泉、乗鞍、白骨温泉、乗鞍高原の8つのエリアで構成されています。国全体のインバウンド政策の1つとして、2016年から、環境省は「国立公園満喫プロジェクト」をスタート。地域の自治体や事業者と連携することで利用面についても強化を図り、「保護と利用の好循環」の実現と、地域活性化への貢献を目指した取り組みが進んでいます。
中部山岳国立公園南部地域は、北アルプス一帯を占める日本を代表する山岳エリアであると共に、温泉のある山岳地域ならではの標高差を誇るフィールドです。この高原地帯を活用し、温泉やさまざまなコンテンツを組み合わせて、新たな過ごし方の提案ができるのではないか。その1つのカギが「ウェルネスツーリズム」です。
ウェルネスとは、健康を身体の側面だけでなく、より広義に、総合的に捉えたもの。身体の健康はもちろん、精神の健康、環境の健康、そして社会的健康を基盤にして、豊かな人生をデザインしていく生き方、自己実現を指します。衣・食・住から、文化的活動や環境まであらゆる分野から参入可能なテーマとして、世界的にも注目されています。
「ウェルネスツーリズム」として中部山岳国立公園南部地域のポテンシャルをはかることで、長期滞在や利用状況の平準化(オーバーツーリズム対策)につながる可能性を探るべく、興味深い取り組みが行われました。2021年11月、乗鞍高原と奥飛騨温泉郷で、日本のウェルネスツーリズムの第一人者である琉球大学の荒川雅志教授を招いて現地調査を実施。その結果を基にモニターツアーが行われました。埋もれた魅力を発掘し、新たなコンテンツづくりの参考になるかもしれません。
今シーズン初の本格的な積雪になる中、まずは森を散策。ガイドを務めた「平湯温泉ひらゆの森」の中本哲仁さんの説明を聞きながら、落ちている枝葉を集めていきます。
森を構成する植物は地域によって変わるので、ここの草木は「平湯の森」だけのもの。集めた枝葉を刻んで、ビーカーに詰めて蒸留すれば、「平湯の森の香り」が出来上がります。
奥飛騨の地酒を味わったり、松本や高山の水について話を聞いたりしているうちに、蒸留が完了。アロマオイルと組み合わせて自分の好みの香りになるように調整して、ディフューザーに入れ、自分だけのお土産ができました。
宿泊したのは、福地温泉にある「奥飛騨の宿 故郷」。若女将の中野梓さんは「おばあちゃんの家でくつろいでいるような空間づくりを心掛けている」と話します。ゆっくり温泉につかった翌朝は、囲炉裏の周りでヨガ教室を体験。囲炉裏の周りを囲んでのヨガは、ちょっとした非日常を感じる時間になりました。
実はヨガ講師の資格を持つ中野さんが、意外にも宿を使って教えるのは今回が初めてとのこと。「自分の得意なことをこのような形で生かせることが分かりました」と笑顔で話していました。
乗鞍高原では、「温泉のプロフェッショナル」小山芳久さんのレクチャーで、温泉に入ります。「自分の体質を知って、適切な方法で入浴することで、心と体を調整して、必要な免疫力を高める効果が期待できる」と小山さん。まずは今の自分の体質をチェックし、目を閉じて足踏みをして、骨格のゆがみのタイプを確認します。
タイプが分かったら、乗鞍高原の3つの温泉について説明を聞きます。それぞれの特徴に合わせた入浴方法を教えてもらって実践しました。
炭酸水素塩温泉の「乗鞍高原休暇村」は、美肌効果があると言われる無色透明のお湯に浸かってリンパマッサージ。
単純硫黄泉のペンション「グーテベーレ」のお湯は乳白色。内湯と外湯がつながっていることを生かして、生まれ変わるような気持ちで外に出る「産道体験」をやってみます。
そしてモニターツアーの宿泊地「山水館信濃」も同じく単純硫黄泉。ここでは、質の良い眠りを誘う入浴法や露天風呂では、雪を摘んで頭の上に載せる雪を使った瞑想を試しました。
ナイトタイムスノーシューでは、善五郎の滝を目指して「ゲストハウス雷鳥」を出発。ヘッドライトの明かりを頼りにしながら、雪が積もった道なき道をザクザクと進んでいきます。シンと静まり返った暗い森の中。この日は雪でしたが、天気の良い日は満点の星空も楽しめるとのこと。
30分ちょっと歩くと、善五郎の滝に到着。案内してくれた「ゲストハウス雷鳥」のスタッフがライトで照らし出すと、大迫力の氷瀑の滝が浮かび上がりました。こんなに近寄れるのは、水が凍るこの時期だからこそ。写真を撮ったり、温かいレモネードを飲んだりして一息入れてから、来た道を戻ります。
帰り道は、新雪の上を全力で駆け下りてみました。スノーシューだからこそできる貴重な体験。新たな森の魅力を感じることもできました。
翌朝は、一の瀬園地をスノーシューで散策。1時間ほど歩いて、目指すのはスノードームです。ガイド役のリトルピークス・福谷愛子さんが園内の木々や、雪の上に残る動物たちの足跡について「これはウサギ」「たぶん…テンかな?」などと解説してくれます。
雪の上を滑るような感覚で進むスノーシューはとても新鮮。この日は風もほとんどなく、快適に歩くことができました。小高い丘を駆け上がったり、新雪の上に寝転んだりと、思わず童心に帰る参加者の姿も。
無事にドームに到着した後は、ちょっとコーヒーブレイク。ドーム内は暖かく、歩いてきた疲れを癒してくれました。
夏期はカフェやバーとして営業することもあるフレームレス透明ドーム「AURA DOME」。一休みしながら、「コーヒーとお菓子でまったりしたい」「ヨガもしたかった」などの声も上がりました。
ペンション「マドンナ」がこの日のために用意したランチ。「ウェルネス」をキーワードに、信州の伝統野菜「ぼたんこしょう」や信州サーモン、野菜やキノコなど地元食材をふんだんに取り入れた全6品です。
家族で経営しているペンション「マドンナ」は、料理はもちろん、サービスも好評。シェフの中原香輔さんが、食べ方や野菜の農法なども丁寧に説明してくれました。
ツアーではこのほかにも、朝市や足湯、ペンションで提供するサウナなども体験。さまざまな地域資源を随所に組み込むことで、乗鞍高原と奥飛騨温泉郷の地域としての多彩な魅力を感じることができました。
朝市で買い物。昭和レトロな雰囲気に参加者一同テンションも上がりました
足湯は、休憩所に囲炉裏があって良い雰囲気
ペンション「テンガロンハット」にあるサウナ
新たなコンテンツを生み出すときには、何もゼロから考える必要はありません。既存の施設、現在提供されているアクティビティ、特技や資格を持っている住民など、今あるものを組み合わせることで、これまでとは違う角度で、地域の魅力を伝えることができるのではないでしょうか。
3月7日には、今回現地調査に同行した荒川教授を講師に迎え、中部山岳国立公園南部地域におけるウェルネスツーリズムの今とこれからについて考える講演会が開催されます。ウェルネスツーリズムや中部山岳国立公園南部地域の魅力について知りたいという方、私たちと一緒に地域一体となって魅力を発信したいという方のご参加をお待ちしています。
国内におけるウェルネスツーリズム推進の第一人者として活躍する琉球大学の荒川雅志教授に登壇いただき、「ウェルネスツーリズム・今とこれから」をテーマにした基調講演を行います。
第2部のパネルディスカッションでは、中部山岳国立公園南部地域で活動する方々をパネラーに迎え、この地域とウェルネスツーリズムの今とこれからについて考えます。
※今後の新型コロナウィルス感染拡大の状況により、開催方法や会場等が変更になる場合もございます。また、感染症対策については万全を期して開催いたしますが、当日の体調不良や気分が優れない場合はご参加をご遠慮ください(要連絡)。