松本市のまつもと市民芸術館を拠点に活動してきた劇団・TCアルプの元メンバー8人が今年4月、新たな劇団を結成した。名前は「theatre LAMPON(シアターランポン)」。代表の武居卓さんは旗揚げにあたり、「松本の街に育てられた俳優として、この街で新たな劇団を起ち上げた」とコメントした。
6月16日~18日には新作アウトリーチ企画「カメレオンの陽気なキャラバン」を上演。その稽古の合間に、武居さんと草光純太さん、下地尚子さんに話を聞いた。
― まずは、結成の経緯について伺えますか?
武居さん
昨年12月、TCアルプのメンバーが集まって、今後について話し合う場がありました。TCアルプをどうしていきたいのか、自分はどうしていきたいのかなど、それぞれが思うことを話す場、ですね。
武居卓さん
草光さん
年度末には串田さんが総監督を退任することになっていたので、メンバーそれぞれ、そこに向かってどうするかを考えていた時期でもありました。
武居さん
僕はお芝居をこのまま続けるのか、続けるにしてももう少し違う関わり方があるんじゃないか、などと悩んでいました。そういう状態で劇団に所属して活動するのは、責任も果たせないし、あまり良くないように思っていて。だからその時は、「退団しようと思っている」と話しました。
下地さん
正直、そのタイミングで明確な答えを出せていた人は誰もいなくて…迷っているとか、少し立ち止まってみるとか、はっきりしないまま、結果的に8人がその日に「退団」ということになりました。
草光さん
じっくり話したわけではないので、何となく宙ぶらりんなところはありました。でも、各々、辞めようと思っているのか、そうじゃないのかっていうのは、その際に分かったかな。
武居さん
言いたいことを言おう、という場だったと思います。でもまあ、その時は、こんな形で辞めることになるとは思っていなかったですけどね。
― 新しい劇団を作るから辞める、ということではなかったんですね。
武居さん
そうですね。実際、僕はしばらくそのままで。3月になって、「このまま立ち止まっていてはだめだ」と思って、そこからもう1回、お芝居をやりたいという気持ちになりました。
草光さん
僕は、何としてでも、1人でもやろう、松本でやっていこうと思っていました。
草光純太さん
武居さん
純太さんは「やろうやろう」と言っていたよね。それで「2人じゃ何だから、皆が何しているか聞いてみる?」となって、連絡をしてみたら、意外と皆、松本で暮らしていることが分かりました。皆、県外出身者なので、引っ越したり、実家に帰ったりしている人もいるかと思っていたんですが。それで話をしてみると、なんとなくモヤモヤしている感じで。
お芝居は、離れてしまうと戻ってくるのが大変で、やりたいという思いはあっても、実際にやらなかったら、いつの間にかできなくなってしまうものなんです。「芝居をやりたい」という衝動を逃してしまうと、もしかしたら一生やらないかも…というのがあったので、どうなるか分からないけど、やってみようと。
下地さん
多分、お芝居に対しての気持ちは皆、残っていたんだと思います。ちょうど新年度を迎える4月に、どういうふうにスタートしようかな、と考えていたときに、何となく意気投合して、集まったという感じです。
下地尚子さん
武居さん
僕は、この町で芝居を作りたいんですよね。稽古に行くときは、北アルプスの景色を眺めながら「今日は何をやろうかな…」、帰りは山並みのシルエットを見ながら「今日はこうだったな、明日はどうしようかな」と思う。山からパワーをもらう、というわけではないんですが、創作するにあたって、この町の景色はすごく影響を与えてくれます。
草光さん
僕を含め、東京で活動していたメンバーもいますが、松本は1つ1つにじっくり向き合える気がしますね。東京は稽古の行き帰りに満員電車に揺られて、何かから自分自身を守らないといけないような感じでしたが、松本は山や水、自然という環境に囲まれている。やはりそういう環境の違いは大きいと思います。
武居さん
東京は情報があふれていて、勝手に入ってくるというか、もらい過ぎている。時にはそれも有効ですが、もう少し、自分で考える間があったほうがいい。
草光さん
芝居を見にいっても、「あいつも活躍している、あいつも、あいつも…」と、勝手にどんどん追い立てられていくような焦りを感じていたのかもしれません。その感覚とはかなり違いますね。
― 新たな劇団で作る芝居は、どんな感じですか?
草光さん
メンバー同士、プライベートは全然一緒にいないので、何を考えているかよく分からないところもあります(笑)。意見が合わないこともある。
下地さん
逆に、それでも一緒にいられるというのは、ある意味奇跡なのかもしれないですね。仲良しではなく、バラバラだけど、だからできる作品もあると思っています。
武居さん
これまで、ほかの劇団の方や、同世代の方とも共演したり、ワークショップをしたりしてきましたが、言われたことを正確にできるというプロフェッショナルと、自分から生み出していく人とは違う。僕たちは後者で、逆に言うと決められたことを正確にするのは苦手なのかもしれません。
草光さん
方向性など、何も決まっていない集団ですが、良く言えば、これからどんなふうにもなれるぞ、という集団です。役者ばかりが集まっているので、運営面は本当に素人みたいなものですが。
武居さん
いろいろなことをやっていこうとは思っています。今回のようなアウトリーチもそうですし、ワークショップとかも。ありがたいことに、そういうお声がけもいただいているので。まだ全然知識が追い付いていないので、勉強していかなければいけないですね。
― 松本に残ってこうしてまた新しく活動してくれることを喜んでくれる人も多いと思います。
武居さん
よく、「残ってくれる」と言われるんですが、残っているつもりはなくて。僕にとっては、ここが地元なんです。今まで暮らしたどの町よりも長く住んでいるし、僕の町はここだから。もし、演劇を辞めていたとしても、ここにいたと思います。
草光さん
引き付けられる何かがあるんでしょうね。東京から来た人も、皆、いい町だっていうし、芝居が終わった後にまた足を運んでくれる人もいますから。
下地さん
いきなり大きなことはできないかもしれません。でも、小さい可能性はまだまだいっぱいある気がしていて。皆で探して、それを形にしていけたら理想的ですね。
武居さん
今回はアウトリーチ公演ということで、オムニバス形式で何本か上演します。その後は、その作品を持って、いろいろなところに出かけていきたい。子どもたちが「面白い」と感じてくれて、その「面白い」が体のどこかに残っていて、大人になった時にふと劇場に行ってみようかな…ということが起きれば、素敵ですよね。そういうことができたらいいなと思っています。
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新たな船出を見ようと多くの人が足を運び、「カメレオンの陽気なキャラバン」全4公演はソールドアウトの盛況だった。
当日の様子
無事に上演を終えた武居さんに、感想とこれからについて聞くと、次のような言葉が返ってきた。
「皆さんとても温かく迎えてくれて、ありがたさと共にプレッシャーも感じた」。
子どもを抱いてあやしながら見ている母親がいたり、前列に子どもたちが並んでいたりという、思い描いていた光景もあったという。
「想定していたはずだが、実際に目の当たりにしたら、僕たちの対応はまだまだ。どんなことがあってもドンと構えられるような修業が必要」とも。
松本の町に新たにともった芸術文化の小さな明かり。その火を見守る人たちの期待を胸に、試行錯誤しながら、より明るく町を照らしてくれることを楽しみにしたい。