特集

クラフトのある街づくり-セレクトショップ×ギャラリー

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■服だけではなく「プラスアルファ」を見る余裕を
ANOTHER LOUNGE(アナザーラウンジ)

今年11月で10周年を迎える「ANOTHER LOUNGE(アナザーラウンジ)」。2003年、現店舗の隣のビルの2階で開業し、4年前に移転した。「自ら選んだ確かなものを届けたい」という店主の矢口正和さんがセレクトしたアイテムは、メンズ、レディス服を中心に、時計、革小物、アクセサリー、キャンドルなども並ぶ。


店主の矢口さん

店内の壁を、作品発表の場として使い始めたのは昨年11月ごろ。これまでに、地元アーティストによる写真や絵画、書道の展示を行った。「店もお客さまも一緒に年を経て、服だけではなく、もっとさまざまなものの提案が必要だと思うようになった」と矢口さん。「プラスアルファのものを見る余裕」を得て、生活を豊かにするもの、心を満たすものを届けたいという思いが、ギャラリースペースという形になった。

最初は入り口付近の壁一面を使っていたが、作品によって場所を変えることも。先月まで展示していた松本市在住の本田彩乃さんが撮った写真は店内各所の壁に置いた。「自分の作品の中から、矢口さんに店に合うものをセレクトしてもらった。他の人の目が入ることで、普段の私とは少し違った展示になった」と本田さん。約20点の作品は、最初からそこにあるかのように、店の雰囲気になじんでいる。

当初は矢口さんが知人のアーティストに声を掛けていたが、展示を見て「私もやってみたい」と相談されることもあるという。「新しいことを始めると、広がりが生まれることを実感している」と矢口さん。店名の「アナザーラウンジ」には、「もう一つの場所」という意味が込められている。「作品を見に来た人に店のことが、服を見に来た人に作品のことが、心のどこかに、ふとどまって何かにつながっていけば」

ANOTHER LOUNGE(アナザーラウンジ)
松本市中央1-8-2 中塚ビル1F TEL:0263-35-7218
営業時間 11:00~20:00
http://www.anotherlounge.jp/

■店も作家も、見てくれる人にも「新しいご縁」になる
Transform-Works3(トランスフォームワークス3)

「女の子をかわいくするガーリーなもの」をコンセプトにした「Transform-Works3(トランスフォームワークス3)」は、ヤマダドレスの支店として2001年にオープン。レディスウエアを中心に、小物やアクセサリーなど「心がウキウキするもの」をセレクトしている。

同店では今年8月から、ショーウインドーを展示スペースとして使えるようにした。月替わりで、立体作品やイラストなど地元アーティストの作品がウインドーを飾る。「地域で営業する店として、地域のためにこの場所をうまく使える方法がないかと考えた」とヤマダドレス統括マネジャーの山田真人さん。スタッフと話し合う中で、展示スペースというアイデアが生まれた。「商売だけではなく、地元の文化的なものとのつながりや発展の後押しになればと思って始めた」

現在、作品を置いているのは安曇野市在住の造形作家・降旗芳美さん。廃材などを用いて制作した小さなオブジェや、絵画が並ぶ。「ショーウインドーなので、目にとまり、一歩近づいてのぞき込こんでもらえるようにと意識した」と降旗さん。「これまで制作したものの中から店をイメージしながら選んだので、(店の)雰囲気に合っていると言われるとうれしい」と話す。


山田さん(写真左)と降旗さん

「自分自身、それまであまり作家の方と関わりはなかったが、新しい縁が生まれた。個性的な方が多く、話をしているだけでも楽しい」と山田さん。作家にとっては発表の場として、店にとっては新たな顧客獲得のきっかけとして、それぞれにメリットがある。「見てくださる方にとっても新しいご縁になればいいと思う。いろいろなつながりが生まれて、街全体が楽しめるようになっていけば」とも。

Transform-Works3(トランスフォームワークス3)
松本市中央2-2-3 TEL:0263-39-6252
営業時間 10:00~19:00
http://www.yamada-dress.com/info/

■街と店と、作家の関係

作家にとって、ギャラリーと、こうした店舗では取り組み方が違うのだろうか?

「全く別のものという感覚がある。ギャラリーの場合、目が肥えている人も多いので、自分の世界を作ることに集中する。店の場合は、店のオーナーやスタッフ、お客さまのことを考えるので、店との共同企画のようなイメージ」(本田さん)。

「ギャラリーは作品を見ようと思って足を運ぶ人が多いし、見慣れている人も多い。ショーウインドーの場合は、街を歩いている人にも目にしてもらえる可能性がある。『ウインドーショッピング』のように『ウインドーギャラリー』が楽しめるようになれば表現の場も広がる」(降旗さん)。

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今回紹介した2店舗は月1回のペースで展示を変えている。当然「店ありき」で、展示の内容には制限もあり、あまりにも店の雰囲気とかけ離れているものは難しい。しかし、店を訪れた人や街を歩いている人が自然にクラフト作品に出合えることは、クラフトを身近に感じるきっかけになるだろう。

毎年5月に行われる「工芸の五月」でも、ギャラリーだけではなく、街なかで楽しめる企画が増えてきている。「かわいい椅子には旅をさせよ」では、松本市美術館の「子ども椅子展」終了後、展示されていた椅子を今度は市内各店で数脚ずつ展示。「商店と工芸」では、市内5店舗の店先で松本の伝統品や日々使われている道具の展示が行われた。

このような取り組みが日常的に行われることで、幅広い年代の人たちが、さまざまな作家の作品に触れる機会が増えるだろう。ふと気付けば、そこにクラフトがある――そんな日常がある街に、松本はなりつつあるのかもしれない。

松本市内7店舗で企画展「商店と工芸」-育んできた工芸伝える(松本経済新聞)

松本市美術館で「子ども椅子展」-中庭の芝生に椅子70脚(松本経済新聞)

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